ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝-永遠と自動手記人形- 感想

今を生きる人が、永遠を手に入れる一つの方法。

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京都アニメーション制作「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝-永遠と自動手記人形-」を見てきました。今回はその感想文です。

 

テレビアニメで監督を務めた石立太一を監修、アニメの根幹を支えた藤田春香を監督として描かれた本作は、文句のつけようもなく世界で一番素敵な物語となりました。

 

 

『人と人の繋がり』

戦争の道具として戦い続けた彼女には不要だった心。しかし、作品を見ればわかりますが、彼女は本当はとても感受性豊かな女の子です。ただ、心の中で感じた事、思ったことを内部で処理することも、外部へ出力することが出来ない、不器用に拍車がかかった女の子なのだと思うのです。

だから、繊細な心の機微は分かるけれど、本当の意味では理解できない。依頼人が、自分自身の口で、目を逸らしていた心のトラウマ、劣等感、本当に言いたい事を話すしかない。そうして半ば無理やりに自身の心と対峙し、依頼人たちは純粋なヴァイオレットの美しい心と共に乗り越えてきた。

 

テレビアニメまでは。

 

 

劇場で見たヴァイオレットの、なんと表情豊かなことか。

ある夜にイザベラが咳き込み、ヴァイオレットがずっと手を握り寄り添うシーンの、なんと素晴らしいことか。

監獄(イザベラ曰く)の中で苦しむ自分に、きつくあたり散らし突き放した自分に、それでも寄り添ってくれる人がいたんです。言葉を発さなくても、伝わる、伝えるものがあるのです。

手の握り方、力の込め方、握り返し方で、イザベラの『一人にしないで』という心と、ヴァイオレットの『そばにいます』という心が見えるのです。

 

そうして心を通わせた二人には『繋がり』ができます。

ヴァイオレットが『依頼人』と『誰か』の沢山の想いを繋いできたように、ヴァイオレットとイザベラにも、『繋がり』が生まれるのです。

 

ヴァイオレットはよくエメラルドのブローチを触りますが、たまに唇に当てる時がありますよね。これは僕なりの考えですが、もしかしたら彼女は『その存在を強く確認するため』に口に当てるのかなと思うのです。だって彼女は、義手だから。温かさも、固さも、何も実感できないから。

そんな彼女が「お嬢様の手を取ると、心が温かくなる」と言うくらいに、イザベラとヴァイオレットには太い繋がりが生まれるんです。

その繋がりを私たちは『絆』と呼び、絆で結ばれた関係を『友人』と呼びます。

『仕事仲間』でも、『恩人』でもない、ただの『友人』。

ヴァイオレットは初めてだと言っていましたが、イザベラにとっても、きっと初めてだったんじゃないでしょうか。

だからこそ、彼女は自分の心の奥深く。一番大切なものを、ヴァイオレットへと託すのです。

 

イザベラとヴァイオレットが別れる、門を挟んだ友人同士というカット。

もしかしたら「イザベラ」は「エイミー」として、その門を飛び出すのかなとも思いました。けれど、彼女は「イザベラ」のまま、踵を返して監獄へと戻っていきます。最初は一瞬、ヴァイオレットには彼女を「監獄」から出すことはできなかったんだと思いましたが、違うんですよね。

彼女の『守りたい大切なもの』と「監獄」から出ることができない『理由』がイコールだから、ヴァイオレットに「手紙という形の祈り」を託したんですよね。

 

『もう会うことはないけれど、それでも私がいた事を覚えておいて』

という祈りを。

 

変わり始めたといえど、まだまだ男尊女卑の時代。貴族の力も強い。守りたいものを守る力もない。自分を差し出すことで、イザベラはテイラーを守っている。だからこそ、彼女は監獄の中で、ほんの少し、この窮屈な世界に爪をたてるのです。

 

そうして、エイミーの『祈り』はヴァイオレットによって『文字』という形となり、ベネディクトによって、テイラーの元へ届けられます。

そうして流れた四年の月日の中で、エイミーの『祈り』はテイラーの『みちしるべ』となり、次の章へと繋がっていきます。

 

『過去』と『未来』を繋ぐ『現在』

ある日、ベネディクトの元へ転がり込んできたテイラーという少女。

彼女はエイミーとヴァイオレットの手紙を頼りに、ホッジンズ郵便局へとやってきます。

 

後編でフィーチャーされるのがベネディクトってのがもう本当に最高すぎます。

いや、前編の時点である違和感、というか予感があったんです。

僕が感じた違和感、それはヴァイオレットの以下の発言です。

 

「手紙なら、届けられるのです。」

 

テレビアニメでは「手紙なら、伝えられるのです。」でした。

その言葉を聞いた時「もしかしたら、手紙じゃなくて配達がテーマになるのか?」と思っていましたが、まさかその通りになるとは…。

 

 

やってきたテイラーは元気ハツラツな女の子。なりたい職業はまさかの郵便配達員。

テイラーがこの職に憧れるのは、いくつかの奇跡によって成り立っているんですよね。

 

エイミーとヴァイオレットに絆が生まれた事。

手紙を書こうと思ったこと。

そして、ベネディクトが字を読めないテイラーの為に、読んであげた事です。

 

ベネディクトは、とても優しく、真摯に仕事に取り組む青年です。

一話で初めてヴァイオレットの義手を見た時、他の全てのキャラは「可哀そう」、「物珍しい」といった反応をしますが、彼は唯一、全く反応しません。初めからヴァイオレットをヴァイオレットとして受け入れていました。

 

そんな彼だから、テイラーは郵便配達員に憧れます。

「幸せ」を運ぶ素敵なお仕事だと、胸を張って言い切ります。

ベネディクトにとっての「つまらない仕事」は、テイラーにとっては「最高にキラキラした職業」なのです。

 

自動手記人形ばかりがもてはやされ、汗水かいて働く男は受付嬢やドールたちから煙たがられ、同じ仕事内容のルーティンの中で彼自身が見えなくなっていたものを、テイラーの純粋な目は見逃さないのです。

 

テイラーは最初は文字の読み書きができません。そして、ここで働きたいと言い、純粋な目で周りの心を動かしていく。

それって、以前のヴァイオレットに似ていませんか。そんなテイラーの為に、貧しい生活の中でも彼女の心に明りを灯し続けたエイミーは、ギルベルトに似ていませんか。

だから、二人の関係を聞いたヴァイオレットは「似ています」と言い、エメラルドのブローチを触るのです。

 

そして、そんなテイラーに文字を教えるのは、ギルベルトから文字を教わったヴァイオレットです。ギルベルトからヴァイオレットへと受け継がれた「文字の読み書き」が、次の世代へと繋がっていく。

ベネディクトの配達の仕事も、定年退職したローランドさんから受け継いだもので、いつかテイラーへと続いていく。

 

彼女たちに限らず、私たちはみんな、そういった世界で生きているのです。

 

そんな中で、テイラーはベネディクトに自分の書いた手紙の配達を依頼します。

住所不明のその手紙。本来は配達なんてできません。しかし、ベネディクトは取り掛かる。

全ては「届かなくていい手紙なんかないからな」という郵便配達員としては『当たり前』の、けれど『一番大切』な気持ちが根底にあるから。

これ、全ての「何かを作る人たちへ向けたメッセージ」だと思うんですよね。

発信したい気持ちがあって、取り組んだ時間があって。確かに出来栄えや他と比較した良し悪しはあると思います。けれど、届かなくていいものはないんです。

僕もずっとそう思っていました。

だから、下手なりにでも、こうして楽しく文章を書いていますが。

 

ヴァイオレットたちも、私たちも、沢山の誰かから多くの影響を受け、今ここにいます。そして、沢山の誰かへ多くの影響を及ぼしています。

そんな私たちだから、沢山の繋がりがあるはずです。

その繋がりは、遠く離れた別の誰かたちを繋ぐかもしれません。

その繋がりのお陰で、過去に積み重ねた時間が未来でより輝くかもしれません。

するとどうでしょう。

私たちの周りの見えない『繋がり』は、私たちの横にいる誰かへ、私たちの過去と未来へ、縦横無尽に張り巡らされているように思うのです。

もし私が不慮の事故や病気で死んでも、記憶喪失になって今の私が無くなっても、0.00000001ミリくらいは、皆さんの中で生きていられるような気がするのです。

ブログの90記事は私の生きた証でもありますし笑

(アニメブログばかりですが、いつもホンキで書いてますので、胸を張って私の感情と言いきれます)

 

未来永劫生き続けたり、後世に消えない名を残す英雄や偉人のようにはなれない私です。しかし、そんな私にもできる『永遠』を手に入れるひとつの方法があるんです。

それは、

過去を愛し、現在を愛し、未来を愛し、そして隣人を愛すること。

なのではないかなと思います。

 

魔法の言葉は「繋がっている」証拠

長い時間調べ尽くしたベネディクトの努力が実を結び、ついにテイラーの手紙はエイミーへと渡ります。

しかし、テイラーはエイミーに会うことは選びません。

 

そして、空に手を上げ、決意を表明します。

 

「いつか、一人前になったら自分で届けに来る!」

 

「いつかきっと」は「また必ず会いに来る」という約束。

その約束は遥か先の未来ではないけれど、それでもかなりの時間を超えた先にある。

これから過ごしていくであろう時間の中には、挫けそうなときも、大変な時も、楽しい時も、悲しい時もあるでしょう。

だけど、二人なら大丈夫。

 

いつでも声に出すことで、この空の下で繋がることが出来るから。

 

ヴァイオレットとイザベラで向かい合った時、彼女は門を出ることが出来ませんでした。

けれど、テイラーに大切なものをもらい、心に刻んだ今なら。

彼女はエイミーとして、門をくぐることが出来る。

エイミーとして、テイラーの名を叫ぶことが出来る。

 

エイミーとテイラーがもう一度繋がれたその奇跡は、3つの『繋がり』で掴み取ったもの。

 

エイミーからテイラーへの『手紙』。

ヴァイオレットからテイラーへの『手紙』。

その二通を届けたベネディクトとの『繋がり』。

 

ヴァイオレットも言いました。

二本だと『ほどけて』しまっても、三本だと『ほどけない』のです。

 

もし、大切な誰かともう何かしらの繋がりがあるなら、もう一本に「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」はいかがでしょうか。

もし、仲良くなりたい誰かとまだ繋がりがないなら、一本目に「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」はいかがでしょうか。

 

きっと。

とても素敵な、楽しい日々へと繋がっていくと思います。

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 

※この記事に引用されたすべての画像の著作権は、「暁佳奈・京都アニメーション / ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会」が保持しています。