ヴァイオレット・エヴァーガーデン第5話 感想

 縁とは、人と人との関わり合い。私たち人間は一人では生きられません。沢山の人と関わり合い、助け合い、影響しあうことで生きていきます。その沢山の出会いの中には宝物のように感じる特別なものもあれば、挨拶を交わすだけのようなものもあります。私は『特別な出会い』と『ありふれた出会い』の違いは、その二人の間に流れる過ごしてきた時間の長さと想い合う時間の長さだと思います。

 出会いは種。過ごした時間は水と陽の光。そうして育てて咲いた花の名前が二人の『関係性』、ひいては心なんだと思うのです。

 

 貴方の大切な人はどのような方ですか。

 

 ご家族でしょうか。

 恋人でしょうか。

 ご友人でしょうか。

 

 色とりどりの大輪を咲かすもよし。

 特別な数輪を大切にするもよし。

 

 その花束こそが、あなたの人生の色なんだと思います。

 

 

 …とまぁ、ポエミーな文章を書いてみましたが、いやはや恥ずかしいですね。

 けれど、そんなものを書いて発信してしまえるほどに、ヴァイオレット・エヴァーガーデン第5話が本当に素晴らしかったんですよ。

 今回の物語は王女と王子のラブロマンスを主軸に、ヴァイオレットの成長を随所に感じる構成となっていました。また、他にも沢山の比喩、暗喩、対比を用いて、ラブロマンスという華々しく美しい物語の中に切ない家族の愛や、重厚な戦争と政治の色を落とし込んでいたのも素晴らしかったです。

 今回は書きたい内容が多すぎて散らかってしまっている感は否めませんが、それでも情熱は込めました。最後まで読んでいただけると嬉しいです。

 それでは行きましょう。今回は5つのトピックスです。

 

第4話との対比

 今回の第5話は、5話内だけでも様々な比喩や対比が至る所にあるのですが、その前にまずは第4話との対比について話したいと思います。4話と5話には多くの共通点と、共通故に見えてくる違いがあります。

 4話を断片でピックアップすると『家族』、『結婚』、『仕事』。アイリスの母の『仕事を辞めて地元で結婚してほしい』という想いと、アイリスの『やりがいのある仕事を続けたい』という想いがぶつかり、アイリスは改めて自分が進むべき道を再確認し、より力強い一歩を踏み出しました。

 5話では、シャルロッテ姫が敵対勢力だったドロッセルとフリューゲルが周辺諸国に友好関係を示すための婚姻を強要されます。つまり、『王族』のシャルロッテにとっては『結婚』が『仕事』なのです。5話を見ていて、なんとなく4話と話のエッセンスが似ているなと感じました。

 しかし、ふたを開けてみるとシャルロッテ姫はダミアン王子へ好意を寄せており、自ら周辺に根回しするほどの行動力を見せます。ワガママで小生意気なシャルロッテですが、『公的な婚姻』の中に『私的な想い』を込めるしたたかさは、芯の強い王女のそれでした。

 「もう少しドールの仕事を頑張りたい」と結婚を遠ざけたアイリスと、「ダミアンの元へ嫁ぎたい」と結婚を選んだシャルロッテ姫。共通の断片から選んだ選択肢は真逆のようで、その実「本当にやりたい事を選んだ」という点ではやはり同じなのです。

公開恋文の役割

 第5話はライデンシャフトリヒ陸軍省から始まります。将官とホッジンズの話題は「南北の戦争が再び起こるかもしれない」という物騒なもの。だからこそ、敵対しあっていたドロッセルとフリューゲルが幸せな婚姻を結ぶ『儀式』の橋渡しをしてほしいという依頼でした。

 今まで戦争の道具として武器を取り人を殺してきたヴァイオレットが、道具としてではなく自動手記人形として、武器ではなくタイプライターで戦争の防止に寄与していくことはとても嬉しかったですが、政治的に求められた公開恋文の役割は『人々に二人の婚姻は素晴らしいものだと思わせること』。

 つまり当の本人たちの気持ちよりも、互いの国民に『順調だと思われること』が大切ということ。美しい文章内容で両国民に好評なら、将官たちにとっては内容などどうでもいいのです。

 しかし、ローダンセ教官曰く『手紙とは、人の心を伝えるもの』、『良き自動手記人形とは、人が話している言葉の中から伝えたい本当の心をすくいあげるもの』のはずです。指定された通りの語句を使い、シャルロッテの本心が分からないまま書いた美しいだけの文章は、はたして『手紙』と言えるのでしょうか。そんな手紙を書く自動手記人形ははたして『良き自動手記人形』なのでしょうか。

 そんな時、シャルロッテはティアラを外し、「この瞬間は王女ではなくただのシャルロッテだから、貴女もただのヴァイオレットとして聞いて?」と言い、自分の本心を吐露します。

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 本当はこの婚姻が嬉しいこと。婚姻が上手くいくよう根回ししていたこと。そして、ダミアン王子の本当の気持ちを聞きたいこと。

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 その話を聞いて、ヴァイオレットは胸の証を触ります。

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 自動手記人形の『武器』であるタイプライターを挟んでシャルロッテの想いを聞くヴァイオレット。私にはこのタイプライターが境界線のように見えました。

 おそらく代筆するために彼女の心を掬いあげようとする自動手記人形としての立場を示していると思うのです。

 しかし、自分の代筆ではシャルロッテの想いを掬えない、彼女の願いを叶えられないと知ったヴァイオレットは、ひとつの『出過ぎた行為』を提案します。それは代筆を放棄すること。王女と王子の二人しか知らない夜の事を、直筆の手紙で、ありのままの想いと疑問をやり取りすることを提案したのです。

 その根底にあるのは『あなたの涙を止めてさしあげたい』という想い。

我々自動手記人形はお客様にとっての代筆のドール。役割以外の仕事はいたしません。ですから、これからすることは私の出過ぎた好意です。弊社、CH郵便社とは無関係だとご承知ください。

 以前のヴァイオレットなら「役割以外の仕事はいたしません。」で終わっていたと思うのです。しかし、語られていない4話と5話の間の数ヶ月間、代筆の仕事を続けてきた彼女の心は着実に成長しています。そんなヴァイオレットだからこそ、自動手記人形の仕事である代筆を辞め、本人に手紙を書いてもらうという「出過ぎた行為」を提案できるのです。

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 その「出過ぎた行為」を提案する時、彼女はタイプライターの境界を踏み越え、シャルロッテと向き合う形をとります。この瞬間こそが、自動手記人形からただの少女である「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」になった瞬間だと思いました。

 そんな自動手記人形にとっては無茶苦茶なその提案のお陰で、儀式的な恋文は真実の恋文へと変わっていきます。国民たちはより二人の手紙に注目し、ああでもないこうでもないと言いながら二人の恋を見守っていく。そしてそれは結果として軍部の政治的目的も達成することになるのです。

 政治的な目論見も、真実の愛も、矛盾することなく混ざり合い、二人は祝福されつつ幸せな婚姻を結ぶ。当然のように祝福される晴れ舞台の裏では代筆屋がいて、さらにその奥には政治と戦争防止の思惑がある。そんな危ういバランスの元に、このお話が成り立っていることが分かりますね。

『広がっていく彼女の世界』/『彼女と世界を繋ぐもの』

 シャルロッテの世界は常に何かしらに覆われていました。特に見ていて気になったのはベッドのカーテン。まるで外界からシャルロッテを守っているかのように、ベッドはカーテンで覆われていました。そして、閉じられた安息の場所で寝ているシャルロッテを起こし、そのカーテンを開けるのは侍女であり、代理母役のアルベルタの役目。

 物語の中盤でシャルロッテはこのような事を言っていました。

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お前が母上の腹からわたくしを取り上げて、お前が私を育てたのよ!

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 この言葉を受けた上で改めてこの画を見ると、シャルロッテのベッドは『母親の腹』のメタファーに見えてしまいます。アルベルタはいつもシャルロッテと外の世界の間にいて、いつでもシャルロッテの手を引いてきたのでしょう。だからシャルロッテはアルベルタに依存してしまうのです。

 しかし、アルベルタはいつまでもシャルロッテを甘やかすことをしません。

(お前はわたくしのものよ!と叫ぶシャルロッテに対し)

私は宮廷女官です。わたくしの身は王宮のものであって、シャルロッテ様のものではないのです。

 アルベルタはいつか離れることに目を背けないからこそ、突き放すことができます。

(出てってよ!と叫ぶシャルロッテに対し)

いいえ、おそばにおります。

 いつか離れなければならないからこそ、いつか来る別れの日まで、ずっと側にいると誓うことが出来ます。

 ふたつの相反する言動の根底にあるのは、アルベルタの確かな愛情なのです。

 しかし、シャルロッテはその愛情に気付かない。今こんなにも愛されていることよりも、この先離れる不安の方が勝ってしまうのです。

アルベルタもいない異国でもし嫌われてしまったら…

 彼女を苦しませるのは、自分を守ってくれる場所(ベッド)も、そこから手を引いて外へ出してくれる人(アルベルタ)もいない異国への不安と、ダミアンの気持ちが分からないという不安です。

 それは、本当の気持ちが見えない手紙のやり取りでは解消できない。シャルロッテの涙を止めることはできない。だからこそ、直筆での公開恋文が必要なのです。

 そうして始まった公開恋文。ベッドで寝ていたシャルロッテの元へ、ダミアン王子の本心が書かれた手紙が1輪のバラを添えて届きます。そしてシャルロッテは返事に、4年の間胸の中で育み続けたダミアン王子への好意を直筆の文字で伝えます。

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 そうして少しずつ、シャルロッテの自室には赤いバラが増えていく。少しずつ彼の気持ち、人となりが分かってくる。

 彼女にとって外の世界の象徴であるダミアンの本心が分かっていくと、彼女の漠然とした外への不安はゆっくりと緩和され、シャルロッテの世界もまた少しずつ広がっていくのです。

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 自室から噴水へ。

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 噴水から池の橋へ。

 手紙が届く度、シャルロッテは彼女を守る自室のベッドから遠くなっていきます。ベッドにいたシャルロッテの手をアルベルタが引き、ヴァイオレットが想いを伝える手伝いをし、最後はダミアンの元へと旅立っていく。

 王子と王女のラブロマンスから始まった物語は、シャルロッテとヴァイオレットに友情が芽生える物語、アルベルタとシャルロッテの家族の物語を経て、最後にまた恋物語へと帰結していきます。

 そして帰結した物語の『めでたしめでたし』の先で、シャルロッテの世界はこれからも、より一段と広がっていくでしょう。

少女から王女へ、王女から妃へ

 シャルロッテが一人の女性として恋を知り、愛を知っていく様を丁寧に描いていくと同時に、王女としての芯の強さもまた描かれていました。私が一番王族らしさを感じたのはこのシーンです。

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 娘が母へあふれる想いを表す時、私は"抱擁"が妥当だと思うのです。しかし描かれていたのは、男性が女性へ忠誠を誓う姿。

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 それはダミアンから愛を受け取った白椿の庭園での一幕の再演。

 シャルロッテは言葉に出さなくとも、『例え嫁いで隣国へ行ったとしても、私がお前のものであることは変わらないわ』と伝えているのです。

 少女(白椿の生花のカチューシャ)から王女(永遠に枯れない銀の椿のティアラ)へ変わり、

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 最後には国のシンボルたる白椿が無くなります。

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 これは隣国へ本国のシンボルを持ち込まない王族の儀礼でしょう。

 

 しかし、最後にアルベルタは白椿の生花をシャルロッテの髪に差します。

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 まるで、シャルロッテへの返事に『その白椿が枯れるまでの間だけはね』と伝えているかのように感じてしまいました。

 

 ここまで書いてきてなんですが、ずっと思っていたんです。アルベルタと離れたくないという想いは、理由をこじつけて語るものなのかと。沢山の理由を剥ぎ取った、最後に残ったむき出しの欲を叫んでほしいと。

 

 だから、嬉しかったんです。

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ダミアン様の元へ嫁ぎたい。でも、国を離れるのは嫌。でも、本当に嫌なのは、他の誰でもなくお前と離れることなのよ。

 苦しませていた不安が取り除かれ、アルベルタと離れたくない理由が消えた今、ただ純粋に「お前と離れるのが嫌なのよ」と言ったことが。

 そしてその返答にアルベルタが白椿の生花を与えたことが。

 

 ダミアンとシャルロッテの庭園での一幕は、二人だけの世界のようでいて、その実覗き見るようなアングルで描かれていました。現にヴァイオレットは二人のやり取りを見守っていました。

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 しかし、シャルロッテとアルベルタの一幕もまた同じように描かれていつつも、覗き見する人はおらず、本当の意味で『二人の世界』でした。

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 だからこそ、母の愛を侍女の仮面で覆っていたいたアルベルタも、想いがあふれてしまったんだと思います。

ヴァイオレットと第5話

 今回の第5話はゲストキャラクターの物語色が強かったため、ヴァイオレットはあくまで自動手記人形としてシャルロッテを支える役…という印象を受けやすかったです。

 しかし、何度か見てみて、自動手記人形ではなく一人の少女としてのヴァイオレットにとって、とても重要な回だったと思いました。

 

 シャルロッテ姫には、彼女が妃のお腹の中にいる時からお世話をする侍女のアルベルタがいました。シャルロッテとアルベルタには血の繋がりはありません。しかし、二人の関係に名前を付けるなら、私は『親子』だと思うのです。

 絶対的な家族の証明である血の繋がりが無くとも、14年間過ごした時間の中で育みあってきた愛情があれば、それは間違いなく家族と言えると思うのです。

 そしてもうひとつ、シャルロッテ姫は隣国の王子であるダミアンに恋をしていました。二人は四年前に出会い、白椿の庭園で二人は二言ほど言葉を交わし、ダミアンが頭を撫でただけで、それ以来二人は会っていません。しかし、シャルロッテはダミアンに手紙で伝えます。

 わたくしはそのたった一度を、ずっと宝石のように大切にしてきたのです。

 その後も手紙のやり取りを続けた二人は両国民に祝福されながら幸せな結婚をし、夫婦になります。 ダミアンと過ごした時間はたった一瞬だったとしても、その瞬間を大切にし、心の中で想い続けることで、それは家族たり得る強固な繋がりになるのです。

 

 血は繋がらなくとも親子たり得る。長い時間一緒に居られなくとも、想い続ければ絆は深まる。それは、ヴァイオレットにも言えることなのです。

 ギルベルト少佐はヴァイオレットにとって大切な存在ですが、今は彼女のそばにはいません。しかし、ヴァイオレットはいつも少佐を思い続けています。少佐は今どこにいるのか。少佐の愛してるの意味はなんなのか。ずっと、探し続けています。

 戦争の道具と、その上司という関係だったかもしれない。それは咎められるべきなのかもしれない。そして、もう少佐は亡くなっているのかもしれない。けれど、今ヴァイオレットは「愛してる」を知るためにを知ろうとしています。沢山の人の優しさに触れて、沢山の人の笑顔や涙に触れて、彼女はギルベルトへ歩み寄ろうとしているのです。

 ギルベルトが残した「愛してる」は心を知らないヴァイオレットのこれからを照らすみちしるべだと思っているのですが、それと同じくらい、心を知ったヴァイオレットが本当の意味でもう一度ギルベルト少佐の元へと戻るためのみちしるべのようにも思ってしまうのです。

 心を知って、愛してるを知った時、ヴァイオレットはもう一度ギルベルトに会えると思うのです。(会えるといっても、ギルベルトが生きていてヴァイオレットと再会できる、という事を言っているのではなく、ヴァイオレットが知っているギルベルトの奥にいる、ヴァイオレットには理解できていなかったギルベルトの姿を本当の意味で理解できた時をさしています。)

 

 しかし、そのためには乗り越えなければならないことがあります。それは『人を殺めてきた』という事実。心を知るということは痛みを知るということで、その『痛み』は物語の根幹を成すとても重要な問題だと思います。

 

 変えられない過去の過ちに対して、心を知ったヴァイオレットが何をするのか。

 その問題提起を印象強く残すために、自動手記人形として最高の結果をつかみ取り一瞬ではありますが笑顔を取り戻せたヴァイオレットとシームレスで、ディートフリートと過去の回想を登場させたのではないでしょうか。

 

 いやー……次回以降のお話が気になって仕方がありません。

 

 沢山の困難を乗り越えて、ヴァイオレットが知らなかったギルベルトと、心を知ったヴァイオレットがもう一度出会えることを願いつつ、今回はこの辺で感想を終わりたいと思います。 

 

 今回も本当に素敵な物語でした。

 

 

 

 

 

 P.S.

 今までは『手紙』というと、言えなかった想いを届ける一方通行のものとして描かれていたヴァイオレット・エヴァーガーデンでしたが、今回は『やりとり』として描かれていたのが凄くよかったです。やっぱり手紙は送って、返ってくるものなんですよね。

 ヴァイオレットは代筆として送る側ですが、いつか誰かから手紙を貰える日が来たら、こんなに嬉しいことはありませんね。

 

 以上、ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。