ついに始まった、待ちに待ったFate/stay night [Heaven's Feel]第二章。
ハードルを上げに上げて映画館へ向かいましたが、完敗でした。Fate/stay nightは元々が18禁ゲームのためエロやグロなどの過激描写が多くあり、それらをufotableが圧倒的な画力で描き切っていました。正直胸が苦しくなる場面が何度もあったのだけれども、だからこそ美しいんです。士郎も、桜も、美しいんです。人間なんですよ。
生きているし、痛みを感じるし、辛いことだってあるし、なんて酷い世界なんだろうって思ってしまうけど、醜い世界の中で足掻いて足掻いて足掻き続ける人間は美しいんです。全てとは言いませんが、醜さの中でしか描けないものはあるんですよね。
[Heaven's Feel]第二章。本当に本当に、最高の作品を見ることが出来たと思います。
劇場版を見終わって良かったと思ったところや、語りたいことを少しだけ書きなぐっていきます。
声優とキャラについて
衛宮士郎 / 杉山紀彰さん
幼少期からずっと目指してきた『正義の味方』と、過ごしてきた時間の中で愛していることに気付けたからこそ目指そうと思えた『桜の味方』とで、士郎は心の中で葛藤します。
桜と過ごせる幸福を噛みしめるような演技。
もしかしたら桜が悪い人なんじゃないかと思い悩む演技。
過去の自分を裏切ることを決意した演技。
10年以上衛宮士郎を演じてきた杉山さんだからこそ、そこに込められた心、感情、息遣いの全てが[Heaven's Feel]の衛宮士郎でした。
もう、なにも言うことはない…。
間桐桜 / 下屋則子さん
過酷な運命を背負っている桜ですが、Fate(セイバー)ルートでもUnlimited Blade Works(凛)ルートでも彼女はメインに出てきません。士郎にとっては優しく暖かい日常の光のように、藤ねえと一緒に家で待つ大切な後輩の女の子でした。
イベントで[Heaven's Feel]の劇場アニメ化が発表され、ついに陽の目を浴びる時が来た時の下屋さんの表情、流した涙から、どれだけ桜の事を思っていたのかが分かります。
いや、本当の意味では僕になんか分かるはずはないけれど、どれだけ想っていたんだろうと考えるだけで胸が苦しくなります。
あとで触れますが、アニメーション制作はufotableです。作画は息を呑むほど美しく、眉をひそめるほど醜悪で、描かれるFateの世界はゲームのプレイ時に頭の中で想像していた以上のものでした。
ufotableの花形はサーヴァント戦で、大音量の効果音やサーヴァントの咆哮と圧倒的画力が盛り上がりの相乗効果を生み出し、観客に襲いかかってくるのです。
しかし、桜のシーンのほとんどはただの会話シーンなんです。画に見合う演技をしなければ、画に負けてしまってもおかしくないんです。並大抵の演技ではあの作画からは浮いてしまうと思います。
けれど、下屋さんの演技は画に全く負けていなかった。桜の心を下屋さんが声に乗せた結果桜は笑い、悲しみ、悩み、顔を綻ばせ、涙を流す。
当たり前のことですが、それが一番重要なんだと思うのです。
僕は桜の演技に涙が止まりませんでした。桜の表情に涙が止まりませんでした。桜の心が、あの二時間の中に込められていたんです。
[Heaven's Feel]一章は想像の遥か上の作品でした。これ以上のものができるのかと正直思ってしまうほど素晴らしかった。けれど、今回の二章はufotableの作画と下屋さんの演技の化学反応によって、より高い次元のものになっていました。本当に素晴らしかったです。
間桐慎二 / 神谷浩史
慎二の事を思うと、僕は自分の感情が分からなくなります。桜を傷つけてきた事実を思うと、僕は正直慎二に殺意が湧きます。けれど、慎二という人の別な一面を見ると、とても共感してしまうんです。
慎二は、慎二が好きな人たちに、ちゃんと自分を見てほしかったんですよね。士郎と本音でぶつかりたい。けれど士郎は慎二に自分の本当の心を見せない。悪態をついても、喧嘩を吹っかけても、士郎は笑顔で許してしまう。凛に自分を見てほしい。けれど凛は慎二に興味を示さない。魔術の才能が無いから。利用価値が無いから。凛が興味を持つようなものが何一つないから。
だから叫ぶんですよね。「こっちを見ろ!」って。
あの声に、声に込められた悲痛な叫びに、胸が苦しくなりました。神谷さんはFateについてさほど詳しくないそうですが、それでも慎二については誰にも負けないと言っていました。あの瞬間の慎二の声は、今までのどの慎二よりも慎二でした。
自分が持たざる者で、周りの人たちは皆持っている人で、だけど自分の事を見てほしかった。誰も見てくれない。なんでこんなことになったんだ。桜が養子として来たからだ。桜が僕から奪ったんだ。魔術師としての立場を。士郎が僕から奪ったんだ。僕の好きな人たちの目線を、桜を、凛を。
慎二のことを思うと、胸が苦しくなる。彼の事は心の底から嫌いだけれど、だけど、だけど、心のどこかで好きになりたいと思ってしまうんです。
もう自分の心が分かりません。こんなに悩んでしまうのは、慎二にも愛情を込めて制作してくれたスタッフの方々、そして神谷さんの迫真の演技のお陰だと思います。
藤村大河 / 伊藤美紀
ほんの少しだけ本編に出てきた藤ねえ。藤ねえは魔術も使えないけれど、とても大切なことを知っているんです。士郎と桜の家族として、姉として、誰よりも近くで二人を見てきたからこそ、知っているんですよね。そして知っているからこそ、本心から桜に言葉をかけることが出来るんですよね。
桜の世界は暗く、黒く、醜悪で、寒い、絶望ばかりだった。これからもその絶望が自分をむしばんでいく事を桜は知っている。だけど、だからこそ、その暖かい言葉が、光が、温もりが、どれだけ嬉しいことか。
それが家族なんですよね。たとえ血は繋がっていなくても。
伊藤美紀さんの演技は、今までの作品においても核心に触れるようなものは無かったと思いますが、今までのシリーズで日常を積み重ねてきて、士郎と桜を心から愛してきたからこそ、あの演技になったんだと思うのです。
あの少ないセリフの中に、今までの10年以上が詰まっていると思うのです。
藤ねえ、めっちゃよかったんですよね・・・。
ufotableの作画と脚本の本気
ufotableの魅力と言えば、まず間違いなく出てくるのはサーヴァント戦の迫力でしょう。
サーヴァント戦には二つあります。ひとつは宝具を連発し、あちこちぶっ飛ばしながら行う大規模な戦闘。もうひとつは白兵戦のように、豪華なエフェクトのない達人同士の試合のような戦闘。今回は、というか今回も文句無しの無限点でした。
一章ではランサー戦がありました。あれは槍兵と暗殺者の達人同士の殺し合いとして見せつつ、高速道路のトラックが大破したり建物がぶっ壊れたりと、人間にとってはとんでもないことが起こっていることが良くわかる素晴らしいものでした。
今回はバーサーカー対セイバーオルタで前者を、アサシン対アーチャーで後者を見せてくれました。
個人的には両者とも良かったですが、バーサーカー戦がもう本当に嬉しかった!!!!!!!!!
バーサーカー戦について
バーサーカー、真名ヘラクレス。彼は13回殺されないと死なないという伝説が宝具の英霊です。バーサーカーの純粋な強さはもちろんですが、その暴風雨のような強さが13回殺すまで持久し続けるからこそ、彼は最強の英霊なのです。
しかし、原作ではあまりその事がフィーチャーされません。彼の強さは[Heaven's Feel]の前にプレイすることになる二つの章でもう充分に描かれていますし、ストーリー的に大切なのはバーサーカーが影に飲まれることですから。
原作では、拘束していた影を振り払い全ての力を込めた全力の一刀を放ち、けれどセイバーオルタにダメージを与えられず、影に飲まれていったバーサーカーだった。しかし、ufotableはそこを圧倒的作画できちんと描いてくれた。
殺されても立ち上がる姿、あの咆哮。イリヤの声に応えようとしたバーサーカーの神話の再現。バーサーカー故に言葉を話すことが出来ないヘラクレスだけれど、その戦う姿から『負けない』、『イリヤを生かす』という強い想いが伝わってきたんです。彼が最後まで戦い切った姿に、僕は涙が止まりませんでした。
別ルートで最凶レベルの存在感を放っていたバーサーカーですが、今回は早々に退場してしまうんだろうかと思っていた僕にとって、あの戦闘は震えるほど嬉しい最高のサプライズでした。
てか、あのレベルの戦闘シーンは今まで見たことない。ufotableヤバすぎる。
桜と士郎のシーンについて
Fate/stay night[Heaven's Feel]は士郎と桜の愛の物語でもあります。僕はエロゲーのFate/stay nightはプレイしたことが無く、全年齢版を現在プレイしています。映画の進行を予想して、大体二章でやる内容を先にゲームでプレイしているため、まだ結末は知らないという稀有な感じになっていますが。
桜が士郎の指から血を吸うシーンは、エロゲーの性行為シーンの代替で作られたシーンというのをプレイしている途中に調べてわかりました。僕は別にFate/stay nightに過剰なエロを求めているわけではなかったのですが、「いやそこは地の文だけでいいから抱くべきところだろ!」と思っていました。
桜の体は穢れている。処女じゃない。その事を桜自身が言っていたからこそ、士郎は抱くべきだと思っていたんです。
「そのままの桜が綺麗だ。汚くなんかない。」と雨の中での抱擁で士郎が言ったその言葉を、桜がきちんと信じられるように。
僕は映画ではさすがにエロシーンはやらないだろうなと想いながらも、できればやってほしいと思っていたので、あのシーンは本当に驚きましたし、めちゃめちゃ嬉しかったんです。
桜のひと時の幸せを、美しい作画と下屋さんのあの演技で描いていくufotableと須藤友徳監督はやはり流石としか言えません。
しかし、あまりに美しいからこそ、見ているこちらは少しだけ恐ろしくなる。
血を吸う行為は吸血で、血は生命力を思わせます。僕には、あの性行為は士郎を捕食するように見えました。その後にライダーと3人でご飯を食べるシーンもあり、そこ自体もとても良かったのですが、『食べること』とはつまり食材の『生』を食べるということで…いや、桜はちゃんとエロくて可愛くてもう100億点なのですが、そこに妖しさが一瞬垣間見えるあの感じがまさしくFate/stay nightで、その雰囲気をきちんと不足なく表現できるのがufotableという会社なんだと思いました。
音楽について
音楽は、何と言っても主題歌であるAimerの『I beg you』と、後半で流れた『花の唄』のメロディアレンジのサウンドトラックが素晴らしかったです。
桜の後ろに立って、Aimerさんが歌っているんですよ。桜の心の中の綺麗な部分も、ドロドロとしたコールタールのような部分も、何もかも。タイアップという概念を超越していると思いませんか。
『わたしを見つけてくれるよね』とひとりごちるような歌詞は、『どうか側にいて』と手を取る歌詞に変わる。曲は届かない想いを美しく歌うものから、あらゆるものを飲み込んで貪り奪うような歌へと変わる。
『花の唄』は間違いなく最強に桜なんだけれども、『I beg you』も間違いなく桜なんですよね。
梶浦由記さんの執念のようなものが、主題歌から垣間見えたような気がしました。
そして、僕の心に特にぶっ刺さったのが、士郎が寝ている桜に包丁を突き立てようとして、けれど出来ず、部屋を去った後に桜が静かに涙を流したシーンと、そこで流れた『花の唄』のサントラ。
『正義の味方である貴方は、私が悪い人になったらちゃんと私を怒ってくれると約束したよね』という歌詞のニュアンスが込められたメロディの中、士郎は桜に包丁を掲げる。しかし士郎にはできず、涙をこぼし、自分の今までを作りあげてきたもの全てを裏切ることを選んだ。そんな士郎が立ち去った後の、あの桜の涙。
あの涙はどんな涙だったんだろうか。
桜の気持ちを想像したくても、できないです。よく僕は「想像して胸が苦しくなった」と言うのですが、あの時の桜の気持ちを想像しようとすると、苦しいを通り越して胸が痛いです。痛い。まじで、痛い。
Aimerの『I beg you』のジャケットのモチーフである影、蝶、崩れゆく体。
蝶はよく死者の魂のモチーフとして扱われます。ジャケットの女性の体を構成する蝶は、一体どれだけの魂を取り込んできたのか。そして、その手の上で羽ばたく一羽の蝶は誰なのだろうか。
I beg youのカップリング『花びらたちのマーチ』の歌詞のように、桜が笑ってこの先の未来へ羽ばたける日が来てくれることを、心から願うばかりです。
最後に
正直もうこれ以上の作品は現れないのでは?というレベルの作品でした…とか思ったら3章公開、来年の春ですって。桜の物語の最後を桜の季節にって、すごく素敵です。
二章の最後、桜の涙にやられて、慎二が死んで、桜の影がついに桜と一体化して。
エンディング中、僕はすごく苦しかったんです。
だけど、次回予告で画面いっぱいの桜の木が映って、涙が止まらなくて。
しばらく席から立てませんでした。
そうなってしまう位、本当に良かった。
僕は桜が好きだけど、桜の可愛らしい面ばかり見ていた。ゲームで醜さの片鱗を見て、映画でより深く彼女の醜さを知った。けど、それでもやっぱり僕は桜が好きなんだなと思った。
そう思えたことが、すごく嬉しかったんですよね。
この先の物語がどうなっていくのか。
桜と士郎の未来がどうなっていくのか。
最終章、楽しみですね!!!!!!!!!!!