少佐の瞳があります。
少佐の瞳と、同じ色です。
これを見た時の、こういうの…
何と言うのでしょう。
エメラルドのブローチを見てそう言った少女の瞳は理解できないものと出会った子供のようでした。
痛々しいまでの無知と言いますか。
感情って赤ちゃんでも出しますよね。
お腹が減ったと泣いたり、嬉しくなったと笑ったり。
思い通りにならないと怒ったりもします。
どんな赤ちゃんでも、絶対にするんです。
1人では生きられないから。手を貸してほしいから。
愛してほしいから。
でも彼女は感情を表に出さない。
人を人たらしめる『感情』を理解できていない不完全さが、逆に彼女の美しさを引き立てていました。
そんな彼女の痛みを感じることが出来るのはあの場にいた少佐だけ。彼女は感情を理解できないということさえも知らないから、痛みも認識出来ない。
僕は無痛ほど痛いものは無いと思います。
痛みは防衛本能です。体が無理をしないように教えてくれるもの。心が壊れないように教えてくれるもの。
どうして彼女にはそれが無いのか。
どこかセピア色がかった景色は過去の夢だったようで、風景は溶けて混ざり合い、少女は病室で目を覚まします。
ボロボロの体で紙に綴るのは手紙というには無機質な、少佐への報告書。
体力はほぼ回復。
動作に多少の支障あるも、任務の遂行は可能。速やかに職務への復帰を…
彼女の感情を表すものは何一つ書かれることなく、現状を記したのみ。
その報告書は彼女自身だと思いました。
その報告書を、風がふわりと攫っていきます。
何も知らない彼女に外の世界を教えるように。
沢山の感情で溢れかえる世界を見せるかのように。
活気溢れる街の景観と、病室という鎖された場所の対比が本当に美しかったです。
という訳でヴァイオレット・エヴァーガーデンの感想始めました。
久しぶりのアニメ感想!!
最初は書かないでおこうかなとも思ったのですが、回が進むごとに書きたい欲が溜まり…うん、書こう!と重い腰を上げました(笑)
現状6話まで視聴済みですが、書くなら1話からでしょ!ということで、時期外れですが最初から書いていきます。なるべく早く最新話の感想を書けるように頑張ってまいりますので、是非よろしくお願いします。
今回は3つのトピックスです!!
- スミレの名前と色のない少女
- 彼女の中と外の優しさ
- 「火傷」と自動手記人形
・スミレの名前と色のない少女
その美しい少女は、戦争で戦い続けた軍人でした。
その少女を知るものは、彼女を武器だと言った。
命令すれば戦う、人の形を模しているだけの、心を持たないただの道具だと。
戦争は壮絶なもので、その中を生き抜いてきた彼女の戦闘能力の高さはおそらく異常なのではないでしょうか。
この表情を見て、まず頭に浮かんだのはエサを待つ雛でした。
少佐に依存しているのか、親の様に刷り込まれているのか。しかし僕は、少佐をそんな冷徹な人だとは思えない。
道具として使ってきたはずの少佐の表情はどこか息苦しそうで、きっと彼女を危険にさらし続けることは本意ではなかったのだと思います。
エメラルドのブローチ…
少佐に頂いたものなのです!
親心のように、彼女が理解できない感情と出会ったことを忘れないでほしかったのでしょうか。
それとも恋心の様に、自分の瞳のようなブローチを見る度に自分を想ってほしいという気持ちがあったのでしょうか。
少佐の気持ちは現時点では全く分かりません。
しかし一つだけ分かる事があります。
それは、心を持たないと言われてきた彼女がエメラルドのブローチに興味を示したこと。
心を持たない彼女に価値があるものとは何?と聞いたら、おそらく実用性のあるもの、希少性のあるもの、戦争を有利に進めることが出来るもの等を答えると思います。
しかし、少佐の事となると話は別でした。
彼女はエメラルドのブローチに今までにない興味を示した。
文字通りの言葉しか扱えず、見たままの情報でしか判断しないはずの彼女が、エメラルドを少佐の瞳だと言い、さらに言葉に出来ない感情に戸惑った。
ここが重要なんだと思うのです。
しかし、そんな彼女はやっぱり少佐以外には興味を示さない。文字通りの意味しか汲み取れない。
本当の親だと思って、なんでも言ってちょうだい?
私には元々親はいませんので、代わりは不要です。
兵器として扱われてきた彼女には感情は不要で、無駄なものだったのかも知れません。
しかし、戦争が終わった今となっては、価値は逆転します。兵器としての力は要らないものになり、道具としての価値は無くなります。
自身の存在価値が見いだせない彼女の悲痛な叫びは心が痛みました。
私が腕を失い、武器としての価値がなくなったからですか?!
私はまだ戦えます!
不要になったのなら、私は処分されるべきです。
彼女が彼女であるためには少佐が、そして戦争が必要という事。
沢山の人の命を奪った戦争が、自分の腕は切断され、体中が傷だらけになった戦争が、彼女には必要だったんです。自分が存在する意味を確認するために。
きっとその少女は無色透明なんだと思うのです。必要な状況で適応するように、無駄なものを捨てられ、ついには空っぽの無色透明の少女になってしまった。
その少女の名前はヴァイオレット。
無色透明の自分の価値を確認するために敵の返り血を浴びてきた彼女の名前がスミレを冠するのはなんとも悲しい皮肉でした。
・彼女の中と外の優しさ
戦争が終結した今だからこそ、手紙の需要は高まる一方。そのことを聞いた時、なんて素敵なんだろうと思いました。
戦争は良いものを何も生みだしません。膨れ上がるのは死体の数と憎しみだけ。
そんな戦争が終結した今だからこそ、大切な人へ想いを伝えたいと手紙を求めるライデンの国の人々はなんて優しいんだろう。なんて素敵なんだろう、と。
そして心が締め付けられたポイントがもう二つあります。
一つ目は文字と文章を教えることは途方もなく大変だからこそ書けない人も多い時代のはずなのに、少佐はヴァイオレットに文字を教えていたこと。
仕事の為か、愛情からか。
どちらにせよこのスキルを身に着けていたからこそ、彼女は手紙の仕事に携わることが出来る。少佐が彼女の『今』を作っている。それがなんだか嬉しかったのです。
二つ目はヴァイオレットが手袋を外した時のベネディクトの表情です。
ここまで彼女の手を見てきた人は、皆息をのみ驚きます。不幸がって、悲しがって、同情し、腫物を扱うようにしてしまう。
僕にはそれが悲しかった。きっと僕自身も同じ立場なら同じことをするだろうなと思ったから。しかし、ベネディクトは彼女の手を見て驚かず、対等な人として接した。
それがとても嬉しかったです。
・「火傷」と自動手記人形
これから君は沢山の事を学ぶよ。だけど、学ばない方が、知らない方が楽に生きられるかもしれない。君は自分がしてきたことでどんどん体に火がついて、燃え上がっていることをまだ知らない。
燃えていません。
燃えてるよ。
燃えていません。おかしいです。
いや、燃えてるんだ。
沢山の人を殺してきたヴァイオレットは、まだ『愛情』を知らないんです。
自分が殺してきた人々にも愛する人がいることも知らない。どれだけの業を背負っているか、理解していないんです。
いつか、俺の言ったことが分かる時が来る。
そして初めて、自分が火傷していることに気づくんだ。
愛を知らないヴァイオレット・エヴァ―ガーデンは、知らないからこそ無痛でいられました。(本人は望んで無痛になった訳ではありませんが。)
そんなヴァイオレットには唯一気になることがありました。 それは『愛してる』という言葉。
悩む彼女の元に、ある一人の客がやってきます。
ミス・ヴァイオレット。
代筆を頼みたいんだけど。
その人は遠くに暮らす幼馴染へ手紙を出したいと言いました。
君が世界の全てだった。
君の為なら、僕は何でもできた。
君の気持ちが知りたい。
君の心を分かりたい。
今は離れているけれど。
君の事を…
愛してる…でよろしいでしょうか?
はい!
どういう時に言うのか。
どれ程の重みがあるのか。
その女性は、初めて会った男性の話から本当の気持ちを掬い、美しい言葉へ変換していきます。その中にもありました。『愛してる』が。
どうして分かるのですか?
先ほどの方の『愛してる』がなぜ分かるのですか?
初めてエメラルドのブローチを見た時と同じ、理解できないものに出会ったような顔をします。それだけ衝撃的だったのでしょう。
その言葉の意味を探すために、心を持たないはずのヴァイオレット・エヴァーガーデンは自動手記人形という職に志願します。
自動手記人形の仕事がしたい?
はい。ペンを握るのはまだ困難ですが、タイプライターなら操作可能です。
いや、そうじゃなくて。聞きたいのは…どうしてその仕事が…
知りたいのです!『愛してる』が…知りたいのです。
少女にとって世界そのものだったギルベルト少佐が、最後に伝えた一度きりの『愛してる』。
その言葉を知りたくて、彼女は踏み出します。
絶対少佐を死なせません!!
やめろ、もうやめてくれ!!
生きるんだヴァイオレット。
君は生きて自由になりなさい。
心から、愛してる。
きっと彼女は沢山の出会いの中で、少しずつ、色々な愛を知っていくんだと思います。
そして、少佐の心がいつか本当に分かる時が来るんだと思います。
でも、その時はきっと。
彼女は、自分の火傷に気づくのかもしれません。
ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン第1話