【8月1日】マグカップが割れた。

 今日の朝、母親のマグカップが割れた。話を聞く限り父親が突っかかって落としてしまったみたい。

 母は「しょうがないよね」なんて言って破片を掃除していたけど、明らかに気分が沈んでいた。僕はそんなに落ち込むことなのか?なんて思った。だって、家には一体何人家族だよってくらいのマグカップがあるから。一時期、僕や姉がマグカップ集めにハマっていた名残なんだけども。

 食器棚には、スヌーピーやディズニー、ジブリのキャラがプリントされたマグカップがズラッと並んでる。けど、母親がずっと使っていたマグカップは、小柄な女性が使うには大きすぎる、ゴツイ茶色のマグカップ。それは、僕が昔母親に買ってあげたマグカップだった。

 僕の母親はよくブラックコーヒーを飲む。ブラックが飲めなかった中学生の時の僕はその『ブラックを飲む姿』がかっこいいなと思ってた。母親=ブラックコーヒーってくらい、よく見てた。

 そんな中学一年か二年(あまり覚えてない)の時にたまたま雑貨屋で見つけたマグカップは、正直可愛くはなかった。けど、持ち手はしっかりしているし、何よりマグカップ自体がぶ厚かった。「淹れたてのコーヒーは熱くて持てない」って母が言っていたのを思い出して、僕はそのマグカップを買って母親にプレゼントした。

 まぁ、「ゴツイ、重い、可愛くない」って言われたのは鮮明に覚えているんだけど、今にして思えば照れ隠しだったのかも。だけど、あの時の僕は腹が立って、じゃあ使うなとか言ってた。

 多分、それ以来母親はずっとそのマグカップを使ってたと思う。かれこれ8年くらい。

 そんなこと思い出しつつ、僕は粉々になったマグカップを見て「まぁ…これ、ゴツイし重いし、使いにくかったでしょ。」って言った。そしたら母は「あれ気に入ってたの」って言った。

 なんとなく、すごく嬉しかった。

 悲しんでる母親には悪いけど、そこまで大切に使ってくれてたことが分かったから。

 また、新しいマグカップを買って、母親にプレゼントしようと思う。