対比で見えてくるもの
何かに秀でた人を見て「いいな」「すごいな」と思ったり、「あの人と比べるとどうして自分は…」なんて思ってしまったり。他人を見て抱く感情は自分と比べてどうかという部分が大きく影響すると思うのです。
ヴァイオレットが理解できていない『感情』。
彼女は他人に興味が無い。だから理解できない。
では、ほかの登場人物たちはきちんと理解しているのか。恐らく答えは否でしょう。
きっと、自分の感情を完全に理解している人なんていないんです。
感情が分からないヴァイオレットの存在によって、感情に翻弄される人達がより浮き彫りになる今回のヴァイオレット・エヴァーガーデン第2話。
めちゃくちゃ面白かったですね。
今回は4つのトピックスです!
- 自動手記人形は依頼人を映す鏡
- 「向いてない」と彼女の『動機』
- 言葉の力と『みちしるべ』
- 本当の始まり
自動手記人形は依頼人を映す鏡
例えばカトレア・ボードレール。
彼女は美しい文章を書きます。依頼人の言葉を聞き、その奥に隠れた本心を掬い取る。その本心は、読む人を魅了する文字となって届けたい人へと渡ってゆく。
彼女は依頼人の本心を美しく映す鏡だから人々は彼女に依頼をするのでしょう。
例えばヴァイオレット・エヴァーガーデン。
彼女は、依頼人が本心を隠すために並べた上辺の言葉を映す。
例え本心では交際したいと思っていても、依頼人が尻の軽い女だと思われたくなくて言った「彼が誠意を見せてくれて、本当に私の事を愛してるなら、エレガントな手紙をください」を「贈答品、及び資金を調達したうえ、再度の挑戦を要望します」と書いてしまう。
しかし、女性の言った言葉通りの文章を書くと、ヴァイオレットの代筆に間違いはない。隠している本心が、依頼人の表情が、『本当は気になっているの』と教えてくれることにヴァイオレットは気が付かないのです。
それにより関係が悪化した依頼人は、泣きながら言います。
私、彼とお付き合いしたかったの…。
でも彼の想いをすぐに受け入れたら、簡単に手に入る女だと思われるじゃない!
もっと追いかけてほしいのが女ってもんでしょう?!
私だって、愛してたのよ!!
きっと、この言葉をヴァイオレットに伝えていたら、彼女はそのまま書いてしまうでしょう。しかし、この女性がここまで思ってくれていることを知った相手の男性は、きっと嬉しくなると思うのです。少し恥をかくかもしれないけれど、きっとうまくいっていたでしょう。
しかし人は本心を隠したがる生き物で、見栄を張りたくなる生き物。
ヴァイオレットが心を知らないからこそ浮き彫りになる、依頼人の弱い部分。
僕はそんな人間臭さ溢れる、泣いてしまった依頼人の女性も好きです。
失って泣いてしまうほど好意を寄せているその女性は色鮮やかで、何色にも染まっていない、染まることが出来ないヴァイオレット・エヴァーガーデンの不完全さがより際立っていました。
「向いてない」と彼女の『動機』
今回の第2話のキーパーソンとなるエリカ。
彼女は「向いてない」に過剰反応する節がありました。
何もドールにすることないのに。
愛想もないし、気も利きそうにないし!
絶対向いてないですよねー!
その様子は自分ではなくヴァイオレットに向けられたものでさえ、体が反応してしまうほど。また、彼女の仕事ぶりからは確かに自信の無さが垣間見えます。
このカットも自信の無さを暗喩しているのではないでしょうか。まるで、自分で作った檻の中に閉じこもっているかのように感じてしまいます。
いくつかカットが変わっても、やはり出ることが出来ない。
自信の無さから閉じこもったけれど、自ら出ることが出来なくなってしまったのではないでしょうか。
こんなにも雁字搦めになってしまうのは、『自信の無さ』と同じくらい大きな『自動手記人形を続けたい動機があるはず』だから。その動機は夢と言い換えてもいいと思います。
しかし、相反する2つの気持ちに翻弄されるエリカは自分の夢を忘れてしまっている。
だから踏み出せないのです。
言葉の力と『みちしるべ』
エリカの歩みを止めるほどの『向いてない』の言葉の力。
それはまるで呪いのようにエリカに絡みつきます。そしてエリカもまた、誰かの歩みを止めてしまう言葉を吐く『人間』なのです。(決してエリカを言及している訳ではなく、人間は誰しもそういった発言をしてしまう、ということです)
質問、よろしいでしょうか?
私は自動手記人形に不適格でしょうか?
それは…私も…
あなたのことは聞いていません。
向いてないわ。
第一、あなたどうしてこの仕事がいいのよ。
僕が呪いの言葉だと思ったのは『向いてないわ』ではなく次の言葉です。
『愛してる』を知りたいのです。
それだけ?
『それだけ?』
そんな理由で自動手記人形を選んだの?という含みを持っています。
何かをやりたい、続けたいと思う理由は、誰かにとやかく言われる筋合いは全くありません。
その人が歩んできた時間、考えてきた時間、決断した勇気。
その先にある夢や目標はその人だけのものなんです。
だからヴァイオレットは言います。
それだけです。
たとえ向いていなくても。
私はこの仕事を続けたいのです。
他人に興味がない彼女だからこそ、ストレートな言葉を言います。自分がやりたいからやる。『それだけ』なのです。
しかし、その言葉は純粋な前進の力として、エリカに絡みついていた檻を吹き飛ばします。
そして、本当に大切なことに気がついた彼女はヴァイオレットの夢を守るために言いました。
何も辞めさせることはないと思います!
そのうち、もっと色んなことを知って、手紙も少しずつ書けるようになると思います。
お願いします。辞めさせないでください。
例え向いていなくても、『愛してるを知りたい』という夢を追いかけさせてあげたい。エリカはヴァイオレットの夢を後押しします。
きっとこれは、夢ともう一度向き合うことが出来た恩返し。
あの子と出会って実感した、忘れそうになってた自分の夢。
埋もれてしまっていた自分の気持ち。
オーランド夫人が書いた小説が私の心を震わせたように、私もいつか、人の心を動かすような手紙を書きたい。
埋もれてしまっていた自分の気持ちをもう一度抱きしめたエリカは、迷うことなく1歩を踏み出せる。
踏み出した時、時計塔の時刻は20時を指します。
20時は十二時辰では【黄昏】です。黄昏の語源は「誰そ彼(たそかれ)」。あなたは誰ですか?という意味です。
エリカは本当の夢を思い出しました。
だから迷うことなく歩き出せる。
あなたは誰ですか?という問いに『私は私だ』と答えることができるようになったから。
そんな彼女を見守るようなエンディングは茅原実里の『みちしるべ』。
エリカの『夢』が、1歩を踏み出す『みちしるべ』となるこの2話でアニメ初披露なのも納得です。
本当に素晴らしい物語でした。
本当の始まり
エリカの言葉もあり、改めてドールの仲間入りを果たしたヴァイオレット。
青色や赤色が差し色としてあるのに、自動手記人形の服に身を包んだ彼女ではやはり色が足りないと感じてしまう。
最後に…これ。
遅くなってごめん。
開けてごらん。
開けます。
これです!
少佐のブローチです!
彼女がブローチをスカーフの前で握りしめます。たったそれだけでしっくりきてしまう。
あの場所にあのブローチがある事が当たり前のようにさえ感じてしまう。
少佐の瞳のようなエメラルドを抱きしめたヴァイオレットは、ついに【自動手記人形】としての1歩を踏み出します。
いつか少佐の『愛してる』を理解するため。
どんな気持ちで言ったのか理解するため。
ここからが本当の始まり。